東京代々木公園で開催された「台湾フェスタ2024」で、五星紅旗(中国の国旗)を看板に描いたブースが問題になりました。
台湾フェスタは台湾の夜市をテーマにしたイベントで、2015年から毎年開催されています。
2024年の台湾フェスタでは異変がありました。
ある店の看板に中国国旗が描かれていたのです。写真でも分かりますが、「台湾」の「台」の下半分を中国国旗に、「湾」の「氵」を台北101になっています。
これを見た第一印象は「けしからん!」より「怖い!」でした。
これをきっかけにして、「台湾好き」による台湾イベント潰しが起きています。
主催者の管理責任とその限界
筆者は台湾フェスタの運営には一切関わっていません。
しかし大前提として台湾イベントに中国国旗を持ち込むなどあってはならないことです。
ネットでは主催者を責める意見が多数見られます。
しかし責めるべき相手は主催者だけでしょうか?
中国国旗を描いたブースに対する批判は非常に少ないように思います。
もちろん主催者には出展者を管理する責任があり、その面では批判は仕方ない面もあります。
では主催者が事前にこの事態を防げたのか?と考えると、これは非常に難しいのです。
台湾フェスタの中国国旗騒動
屋外で屋台を出して広く一般の方に台湾を感じてもらう類似の台湾イベントは全国各地で行われています。
筆者も名古屋で「台湾・台中夜市」というイベントを毎年11月に開催しています。
台湾・台中夜市のコンセプトは「ピュア台湾」で、本物の台湾を名古屋で味わえることを重要視しています。
さて台湾フェスタですが、主催者が意図して中国系ブースを出したとは考えにくいです。
どの台湾系イベントの主催者も中国系が混じるのを嫌います。政治的な主張を含むイベントと思われたくないからです。
一方、中国系イベントはしばしば「台湾」を冠したブースが出展しています。これは往々にして政治的な意味を込めており、「台湾」を名乗りつつ中身は中国人だけのケースが多いです。
今時の台湾人なら支持政党に関わらず、台湾イベントに五星紅旗が掲げられたら怒ります。
実際、今回の件も台湾でも報道され、台北駐日経済文化代表処(駐日台湾大使館相当)も今後2年間、同イベントへの協力を取りやめると決めました。
イベントの後援に台北駐日経済文化代表処が入っているので、放置すれば台湾国内の政治問題に発展する可能性もあります。
協力取りやめは当然の反応でしょう。
筆者の友人の台湾人は「きっと中国から金をもらってやったんだ!」と怒りの声を上げています。
このように確実に非難されると分かっていることを主催者が行う意味はありません。
攻撃側の中国、防御側の台湾
今回の件を通して「攻撃側の中国」「防御側の台湾」の置かれている状況を見直してみましょう。
よく知られているように中国は台湾を自国領だと主張し、武力による台湾侵攻も手段の一つとしています。
逆に台湾が中国に侵攻する可能性は0です。その意思も能力もなく、常に中国に対して防御側の立場になります。
今回中国国旗を描いた店舗が、単に商売をしたくて紛れ込んだのか、政治的な意図があったのか、単なる台湾に対する無知なのかその意図は不明です。
しかし台湾イベントを快く思わない勢力が、妨害を試みる事例は間違いなくあります。
イベントにすり寄る怪しげな人たち
筆者が関わる台湾・台中夜市にも同じような怪しい人々の動きはあります。
例えば
- 通常出展料の数十倍の金額を払うから、自分たちも出展させろと言う店
- 「自分は名古屋で商売している台湾人だ」という簡体字のメール(台湾で簡体字は使いません)
- 「売上はすべて恵まれない子供に寄附するので出展させろ」という某中国系企業にお勤めの方(出展しなくても寄附はできるんじゃね?)
- 筆者に向かって「台中夜市を潰してやるからな!」と脅迫する方
- 会場で怪しげな食材を出展者に売ろうとする人
etc…
筆者の方でブロックしているので幸いにもこれまで大きなトラブルはありません。
また出展者も信頼できるお店を厳選しています。
では台湾フェスタのようなことが絶対起きないかというと、そんなことはありません。
主催者がどんなにルールを厳格化しても、慎重に慎重を期す態勢を整えても、攻撃側は必ず抜け道を探し出そうとするのです。
「事前に審査して中国人か調べればいいだけ」と思うかもしれない。
しかしそれでは不十分です。台湾人でも変なのはいます。
筆者は台湾人経営の飲食店オーナーから「知り合いに日本でビザなしで会社経営してる中国人がいる。ビザがほしいので偽装結婚相手の日本人を紹介して」と言われたことがあります。当然相手にしません。
どれだけ厳密にチェックしても、おかしな人が紛れ込む可能性はあるのです。
この可能性は従来より想定していましたが、台湾フェスタで実際に起きたのです。これが冒頭で「怖い!」と感じた理由です。
主催者を批判するだけで良いの?
ほとんどの方は、あの手この手で進入を試みる怪しげな存在を知らないと思います。
そのような方々はイベント主催者のみに批判の矛先を向けるのも分かります。主催者には運営上の責任があるので、その批判は間違いではありません。
しかしそれだけで良いのでしょうか?
台湾イベントに紛れ込んで中国国旗を掲げたブース出展者に対しても同じか、それ以上の批判をすべきではないでしょうか。
現在の状況は、攻撃側がノーダメージで防御側(台湾)のみ大きな被害を受けているのではないでしょうか。
「台湾好き」を自認する人がの一部にはこのイベントを潰すべきと主張します。しかし台湾イベントに中国国旗を掲げた店舗はほとんど何の批判もされません。
この結果を見て、攻撃側は他の台湾イベントにも同様の行為をする可能性があります。攻撃側はノーリスクで目的を達することが出来る実例が出来てしまったのですから。
全国各地で行われる台湾イベントは今回の件を受けて、今後一層慎重に運営するでしょう。
しかし外部からの妨害に対処することに手間を取られ、日本と台湾の友好を深めるという部分に注力できなくなるかもしれません。
台湾フェスタの会場では埼玉台湾総会が台湾がWHOへ加盟できるよう署名活動をしていました。
在日台灣原住民連合会は台湾原住民の収穫セレモニーを披露しました。
これらの活動は非難されるべきでしょうか?
「中国国旗を揚げたブースの出現を防げなかったから、イベント自体を潰してしまえ」というのは、まともな人々の活動の場も奪うことになります。
「台湾好き」の義憤が逆効果に?
繰り返しになりますが、政治的な思惑がない、純粋に日本と台湾の友好を深めることを目的としたイベントに中国国旗を持ち込むなどあってはならないことです。
日台友好の場を作る最終責任は主催者にあります。しかしブース出展者も同じように責任があります。
非難の対象を主催者に向けるのも当然です。
しかしバランスを欠いた批判が、結果的に日台交流の場を失うことに繋がっているのではないでしょうか?
義憤に駆られた「台湾好き」な人たちの手によって、日台友好の場が一つなくなろうとしているのではないでしょうか?
それは本当に「日台友好」「台湾好き」のあるべき姿でしょうか?
台湾イベントを運営するに当たって、主催者が置かれている状況を少しでも伝われば幸いです。