台湾映画「バオバオ フツウの家族」と台湾LGBT映画

台湾映画「バオバオ フツウの家族(原題:親愛的卵男日記)」の試写会に参加しました。

同性婚と子供を通して当事者の葛藤を描いた映画です。私はLGBTを取り巻く諸問題に詳しいわけではありませんが、この映画はぜひ多くの人に観てもらいたいと思いました。同性婚に賛成/反対のどちらの立場でも、多くを考えさせられる映画です。

子供がほしくなった同性婚カップルが考えたのは、レズビアンカップル(シンディとジョアンヌ)とゲイカップル(チャールズとティム)が協力してお互いの子供を授かる方法でした。 当初はみんな納得の上での計画でしたが、 シンディの妊娠・流産や4人の人間関係の変化によって揺れ動く心・・・

LGBT関係としてみるだけでなく、中国語の勉強にもほどよいレベルなので台湾式中国語の学習者にもお勧めです。
ぜひお近くの映画館でご覧ください。

また出演キャストの紹介や、その他の台湾のLGBT映画も本記事でご紹介します。

台湾の同性婚

台湾の司法院大法官會議は2017年5月24日に司法院釋字第748號解釋(同性二人婚姻自由案)を発表しました。これは憲法第二章の第七条(人民の平等)と第二二条(人権の保障)に基づき、同性婚を認めない民法の規定は違憲なので2年以内に法令を改正するように政府に求めるものです。

蔡英文政権は司法院の要請に応え、 2019年5月17日アジア初の同性婚を認めるよう特別法(司法院釋字第七四八號解釋施行法)を制定しました。直接民法の修正をしなかったのは2018年の国民投票で民法改正反対が多数を占めたからです。
5月24日から同性婚の受付が始まり、初日だけで526組のカップルが婚姻届を提出しました。

上映映画館

都道府県 劇場名 公開日
関東
東京 新宿Kʼs cinema 9/28(土)
神奈川 横浜シネマリン 10/19(土)
中部
愛知 名演小劇場
10/12(土)
近畿
大阪 第七芸術劇場 10/19(土)
京都 京都みなみ会館 近日予定
兵庫 神戸アートビレッジセンター 11月予定

バオバオ フツウの家族 概要

2018年秋に台湾で公開された本作は、それに先立ち同年8月〜9月に開催された「第五回台湾国際クィアフィルムフェスティバル」のオープニング作品として、海外では、スペインとロスアンゼルスの映画祭で上映されている。
二組の同性カップルが子供を持ちたいという願望から始まるこの物語は、台湾で新人登竜門として一番大きな脚本賞のコンペから生まれた。
2015年、これに応募した国立台湾大学大学院に在学中の鄧依涵(デン・イーハン)の脚本『我親愛的遺腹子』が優秀賞を獲得、プロデューサーのリン・ウェンイー(林文義)の目にとまり、映画化が進む。
話題性と時代性があり、全世界に向いた作品ということでリン・ウェンイーは同性愛に詳しいシエ・グアンチェン(謝光誠)を監督に起用し製作を開始した。

台湾では80年代の民主化に伴い、LGBT運動も90年代に萌芽の時を迎え、2003年に台北でLGBTパレードが始まった。2010年には台湾第二の都市高雄でパレードが開始、2011年から新竹、屏東、台中、花蓮など各地方にこの活動が広まった。
映画では、1992年のツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督作品『青春神話(原題:青少年哪吒)』あたりからLGBTをテーマにした作品が市民権を得、1993年にアン・リー(李安)監督による『ウェディングバンケット(原題:囍宴)』で大きく花開くことになる。

その後劇映画だけでなくドキュメンタリー、テレビドラマも含めて次々と生み出された同テーマを扱う作品群は、『藍色夏恋(原題:藍色大門)』『僕の恋、彼の秘密(原題:十七歲的天空)』『花蓮の夏(原題:盛夏光年)』『GF*BF(原題:女朋友。男朋友)』など、特に青春映画において秀作が続いた。

本作は、日本でも公開された先述の青春映画とは異なる。
同性を愛することに逡巡して悩める高校生を中心とした若者たちの姿ではなく、すでにそのステップを越え、社会の軋轢や理解することが難しい親たちとの確執と対峙する、深い人間ドラマだ。

台湾映画の中では、アン・リー監督の『ウェディングバンケット』(1993年)、鄭伯昱(チェン・ボーユー)監督の『満月酒』(2015年)に続く“おとなの物語”と言えよう。

映画は妊婦のシンディがひとりロンドンから台湾に戻るところから始まる。
不安と悲しみに満ちた彼女が頼ったのは幼なじみの警官タイ。かねてよりシンディを密かに思っていたタイは、理由も聞かずに自分がお腹の子の父になると言うのだが、シンディの心は癒されない。
子供を持って家庭を築きたいと願うシンディとジョアンヌがようやく待望の子宝に恵まれたのに、なぜ彼女はひとりで帰国したのか…。
幸せいっぱいのロンドンでの暮らし、そして同じ思いを持つチャールズとティムの男性カップルとの妊活共同戦線が、現在と時間が交錯しながら綴られていく。
この映画の主人公シンディはとても精細な心を持つ画家で、ジョアンヌはそんな彼女を愛おしみ全身で守ろうとしている。ジョアンヌはシンディの愛とぬくもりに包まれて、厳しいビジネスの世界でたたかう戦士のようだ。
誤解が生む不信感、そんな綻びから愛の不確かさに心を痛めるシンディの心象を表す冒頭の車窓の映像は、見る者もチクッとトゲを刺されるような印象深い出だしである。

ロンドン生活の経験者であるシエ・グアンチェン(謝光誠)監督は、この映画を最初は、ロードムービーにしようと思っていたという。ロンドンで子供を授かった女性と様々な人との出会いを、映像と音楽で心模様の広がりを描きたかったそうだ。
なるほど、冒頭のシーンにこめられた監督の意図は、ここにあった。

幸せにあふれる日々、ちょっとした諍い、ユーモアも交えながら描かれる妊活シーンなどが心地よいテンポで綴られていくが、これを演じる4人の俳優の顔ぶれが新鮮だ。

シンディ役は、日本とフランスのハーフで司会者として人気のエミー・レイズ(雷艾美)。本格的な演技は初めてだが、その無垢さが役とマッチしての好演だ。

ジョアンヌを演じるクー・ファンルー(柯奐如)はアイドルドラマからアート映画まで国内外でキャリアを積んでいるだけに、静と動のコントロールを時々見失う難しい役どころを安定の演技力でこなしている。

一方の男性カップルのチャールズは、台湾で活躍する日本人の蔭山征彥。俳優としての経験はもちろん、映画音楽を手がけたり、『念念』(2015年)では脚本家として香港電影評論学會の脚本賞を受賞、また『KANO(KANO 1931〜海の向こうの甲子園)』(2014年)では出演のほかに若手の演技指導、演出補ほか多くの役割を担ったマルチな才能を持つが、本作では無邪気さの中に狡猾さも秘めたキャラクターを見事に演じきった。

 

彼のパートナー役のティムは、ダニエル・ツァイ(蔡力允)が豊富な経験から幅の広さで印象深い学者像を見せてくれる。

また、シンディの幼なじみのタイを演じたヤン・ズーイ(楊子儀)は、テレビの旅番組の人気司会者だが、数々のドラマにも出演しており本作でもシンディへの想いとそれを押さえる包容力のバランスが良い。
決して派手ではないが、ツボを押さえたキャスティングである。

台湾は、スターが出ているからヒットするということはほとんどない。おもしろいかどうか、という非常に健全なジャッジで映画を見に行くので、誰が出ているかより、誰がどう演じているかが重要だ。
「世界のどこにいても“自分たちを受け入れてくれるのはどこか、どこが家なのか” を考えている」という監督の思いを受け、この映画の出演者たちはきちんとそれに応えている。

本作を含め、LGBTを扱ってはいても、台湾映画が培ってきた人間を見つめる確かな“眼”が、完成度の高い青春映画であり、ラブストーリー、ヒューマンドラマを生み出す源になっている。“同志電影”(同志は、中国語で同性愛の意味)や最近多い“性別越介”(TRANCE BORDER)いうジャンル分けはあるものの、どの作品も性差を超えた素晴らしい恋愛映画なのだ。

註1) 『青春神話(原題:青少年哪吒)』1992年
監督:ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)
出演:リー・カンション(李康生)ミャオ・ティエン(苗天)
予備校生の少年を中心に、夜の台北を舞台に刹那的に生きる若者たちを
描いた青春群像劇。
註2) 『ウェディングバンケット(原題:囍宴)』1993年
監督:アン・リー(李安)
出演:ウィンストン・チャォ(趙文瑄)メイ・チン(金素梅) 
マンハッタンで恋人と暮らす主人公は、両親に藝であることを告げられ
ず、偽装結婚を企てる。
註3) 『藍色夏恋(原題:藍色大門)』2002年
監督:イー・ツーイエン(易智言)
出演:チェン・ボーリン(陳柏霖) グイ・ルンメイ(桂綸鎂)
同性愛である自分のアイデンティティを確立させるヒロインと、
届かない思いを自分の中で昇華させることで成長していく男子高生。
註4) 『僕の恋、彼の秘密(原題:十七歲的天空)』2005年
監督:DJチェン(陳映蓉)
出演:ヤン・ヨウニン(楊祐寧)ダンカン・チョウ(周群達)
恋人を探しに台北へ出てきた地方の男子高校生と、プレイボーイの
明るいラブ・ストーリー。
註5) 『花蓮の夏(原題:盛夏光年)』2006年
監督:レスト・チェン(陳正道)
出演:チャン・シャオチュアン(張孝全)レイ・チャン(張睿家)
落ちこぼれの高校生とそれを面倒見る優等生、ふたりに関心のある
女子高生が絡んで展開する微妙なトライアングル・ラブ。
註6) 『GF*BF(原題:女朋友。男朋友)』2012年
監督:ヤン・ヤーチェ(楊雅喆)
出演:チャン・シャオチュアン(張孝全)グイ・ルンメイ(桂綸鎂)
急激な変化をとげる社会背景の中で“自由”を求める男女三人の、
高校生から大学生、そして社会人へと30年にわたる愛と友情の物語。
註7) 『満月酒』2015年
監督・主演:バーニー・チェン(鄭伯昱)
出演:クェイ・ヤーレイ(歸亞蕾)マイケル・アダム・ハミルトン
ゲイのパートナーと暮らす主人公は母親から孫を期待され、代理母を
探すのだが…。

 

ストーリー

「赤ちゃんが欲しい」と、ロンドンに住む2 組の同性カップルが協力して妊活を始める。双子を妊娠したシンディは、ひとりロンドンから台湾に戻る。不安と悲しみに満ちた彼女が頼ったのは幼馴染の警官タイ。かねてよりシンディを密かに思っていたタイは、理由も聞かずに自分がお腹の子の父になると言うのだが、シンディの心は癒されない。子供を持って家庭を築きたいと願うシンディとジョアンがようやく待望の子宝に恵まれたのに、なぜ彼女はひとりで帰国したのか…。

スタッフ・キャスト
プロフィール

監督:謝光誠(シエ・グアンチェン)

1969年生まれ
台湾大学社会学部卒業、1999年ロンドン国際映画学校卒業。台湾へ戻ってCMや短編、ドキュメンタリーを撮る。短編『夏日酷暑的輓歌』が2004年にイタリアFANO映画祭のコンペティションで審査員賞を受賞。2015年、 『進擊的煉乳』がアメリカFilm Crash international Film Festivalの短編部門のグランプリ獲得、台湾最大のインディペンデント映画祭「台灣城市遊牧影展(Urban Nomad Film Festival)」の大遊牧獎を受賞した。
本作が長編の第一作。

脚本:鄧依涵(デン・イーハン)

台湾大学心理学部卒業。在学中に『夢迴』が、教育部(日本の文部科学省にあたる)の文芸創作賞「原題/児童ドラマ脚本」の優秀賞を獲得。
2015年、本作のもととなる『我親愛的遺腹子』が文化部(日本の文部科学省にあたる)主催の※優秀脚本賞の優秀賞受賞。

優秀賞受賞コメント

「こどもにとっての健康と幸せの条件は血縁?それとも愛?
私は、この脚本によって様々な議論と思考が広がることを願っています。そうすれば、全ての恋人同士が自分の子供を持ち、愛し、共に成長することができます。」

※脚本コンペ「徵選優良電影劇本獎」

台湾で新人登竜門として一番大きな脚本賞で、ここから今の台湾映画界を担う魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)、林書宇(トム・リン)、楊雅喆(ヤン・ヤーチェ)ほか多くの監督と脚本家が出ている。
1976年に映画人育成の目的の為政府が創設した映画の脚本コンペで、現在は「文化部(日本の文科省にあたる)影視及流行音楽(映像・音楽)産業局」が管轄する。応募資格は中華民國(台湾)國民であること。グランプリ(1作)、特別、優秀あわせて20作の受賞者には、300万〜400万台湾ドル(約1000万円〜1300万円)の賞金が与えられる。審査員は、映画人、作家や大学教授、ジャーナリストなどで構成される。また、選ばれた脚本は、公式サイトで公開され誰でも閲覧できる。

そして、ここから生まれた多くの優秀な脚本が映画化されている。
最近の受賞作で、日本公開(予定を含む)や映画祭等で上映された作品は、以下の通り。
『セデック・バレ(原題:賽德克‧巴萊)』『あの頃、君を追いかけた(原題:那些年,我們一起追的女孩)』『KANO 1931 海の向こうの甲子園(原題:KANO)』『(コードネームは孫中山原題:行動代號:孫中山)』『百日告別』『High Flash〜引火点(原題:引爆點)』『バオバオ フツウの家族(原題:親愛的卵男日記)』ほか。

シンディ役:雷艾美(エミー・レイズ)

父親がフランス人、母親が日本人のハーフで、美人三姉妹の長女。
小学校から大学まで陸上競技の選手で、2015年には台北マラソンにも出場。
美人三姉妹がセクシーポーズで男性誌のグラビアを飾ったり、ソロではバラエティ番組や旅番組の司会をつとめつつ本作でスクリーンデビューした。
本作では、第58回亞太影展(アジア・パシフィック映画賞)の新人賞にノミネートされた。

ジョアンヌ役:柯奐如(クー・ファンルー)

1980年生まれ
2002年人気アイドルドラマ『流星花園(流星花園〜花より男子)』で道明寺の婚約者役としてデビュー。
『求婚事務所(求婚事務所〜Say Yes Enterprise〜)』『危險心靈』『泡沫之夏(泡沫の夏)』『姜老師,你談過戀愛嗎?(先生、本当の恋って?)』『人生劇展』シリーズほかアイドルドラマとシリアスドラマ両方で活躍。
映画は2002年『7-Eleven之戀』を始め、『情非得已之生存之道(ビバ!監督人生)』『夏天的尾巴(サマーズ・ テイル~夏のしっぽ~)』『阿霞的掛鐘』『對面的女孩殺過來(ロマンス狂想曲)』などに出演。
2009年台湾とドイツの合作映画『曖昧(Ghoste)』は、ベルリン国際映画祭に参加、2010年台湾、フランス、オランダ合作の『你在嗎?(R U There)』は、カンヌ国際映画祭のある視点部門にノミネートされ、国際的な映画の共同制作にも関わっている。
本作では、第58回亞太影展(アジア・パシフィック映画賞)の助演女優賞にノミネートされた。

チャールズ役:蔭山征彥(カゲヤマ ユキヒコ)

日本生まれ。
2004年ドラマ「寒夜續曲」で台湾デビュー、2005年の初映画「經過(時の流れの中で)」(東京国際映画祭でも上映)で準主役、2008年「海角七號(海角七号 君想う国境の南)」のナレーターほか映画中心に活動。2009年「不能沒有你(あなたなしでは生きていけない)」の音楽を担当、2012年「手機裡的眼淚(父の子守歌)」で日本人俳優としては田中千絵以来の初主役、大阪アジアン映画祭でも上映された。
「KANO(KANO 1931〜海の向こうの甲子園)」では俳優として出演しているほかに若手の演技指導、演出補ほか多くの役割を担った。
2015年自らの脚本「念念」が張艾嘉(シルヴィア・チャン)の目にとまり、脚本家デビュー、香港電影評論学會の脚本賞を受賞した。

ティム役:蔡力允(ツァイ・リーユン)

1984年生まれ。CMやMVからスタートして、2009年映画『淚王子』で長編デビュー、『龍飛鳳舞(天龍一座がいく)』『花漾(花様 たゆたう想い)』『痞子英雄2:黎明再起(ハーバー・クライシス 都市壊滅)』などに出演している。ドラマでは『拜金女王(王子様の条件)』、『華麗的挑戰(スキップ・ビート!~ 華麗的挑戦~)』というアイドルドラマに出ていたが、最近では『燦爛時光』『一把青』『紫色大稻埕』など文芸色の強い話題作に出演。本作と同時期公開のLGBT映画『紅樓夢』にも出演。

タイ役:楊子儀(ヤン・ズーイ)

1984年生まれ。ドラマの小さな役からスタートし、台湾のバラエティ・キング吳宗憲(ジャッキー・ウー)に見出され、人気旅番組「世界第一等」の司会を2008年から6年間つとめる。その後はグルメ番組「食尚玩家-就要醬玩」の司会者と、俳優としてファミリードラマや映画に出演し、2014年ドラマ「雨後驕陽」で金鐘獎の助演男優賞にノミネートされた。
今年は出演ドラマ2本が放送予定。

【配給】オンリー・ハーツ、GOLD FINGER
©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd

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