台湾原住民文学のご紹介です。
「都市残酷」は台中市和平区雙崎部落出身のワリス・ノカン(タイヤル族)の短編集です。日本語訳は台湾原住民文学の大家・下村作次郎先生です。
ワリス・ノカンは原住民族としての覚醒以降、台湾原住民部落の伝統生活や山地の風景、そして近代文明との衝突、さらに原住民族の受難の歴史を様々な角度から作品に描いてきました。
本書は1980年から2007年までに発表された作品の邦訳版で、台湾原住民を取り巻く環境や時代背景の変化も興味深いところです。
「原住民の伝統文化を守る」と口にするのは簡単ですが、実社会に生きた形で実現させるのがいかに困難なことか。
誇りある台湾原住民と都市化の波が生み出す悲哀。それは外部の人が台湾原住民に対する明確な意図を持った差別だけでなく、無意識に彼らの誇りを傷つけているのではないかと考えさせられました。
台湾へ行き原住民文化を訪ねるとき、私たちは無意識に観光的要素を求めています。観光客向けのショーを提供する「台湾原住民」は、自らの文化を発信する気持ちの人もいれば、単に経済的利益を求める人もいるでしょう。「誇りある伝統文化を金に換える思想はダメだ!」と言う人もいるでしょう。しかし観光資源を求めておきながら、経済的利益を求める演者を責めるのは筋違いです。本気で自らの文化を発信しようとする人から見たら、観光客の見世物ショーはどう映るだろうか?
そんなことを考えながら読み進めましたが、非常に味わい深く、何度も読み返したくなる一冊です。